マーケティングリサーチを事業に役立てるための7つのコツ

DeNAに7年、アマゾンに半年、メルカリグループのメルペイ1年と、約9年間に渡ってIT企業でマーケティングに関わる様々な仕事をしてきました。

 
その中で、特にDeNAで約2年、直近のメルペイで約1年、マーケティングリサーチを活用して様々なカテゴリのサービスに対するユーザーの心理を見つめ、現状や事業成長の可能性を把握し、マーケティングや経営の方針作りをサポートしてきたこともあり、改めてリサーチの使い方を振り返ってみたいと考えました。
 
また、個人的には、来月7月から産休で一旦お休みに入るというタイミングでもあり、なぜか最近「リサーチについて教えてください」と言われることも多かったこともあり、リサーチの上手な活用法についてまとめてみようと思います。
 

マーケティングリサーチに関わる多くの誤解

さて、マーケティングリサーチというのは、「ああ、アンケートまとめるやつでしょ」「お客様を連れてきて、話聞くやつでしょ」と考えられる方も多いかもしれません。確かに、実際こういった調査の入り口としては、GoogleフォームやSurvey monkeyなど無料のアンケートツールでアンケートを作って、そのURLを100人にメールで送って、返ってきた結果を集計すれば、立派なアンケート調査(定量調査)とは言えるのかもしれません。また、身近な友達や知人に時間をもらって、「このサービスどう思う?」と意見を聞いてみれば、それも立派なインタビュー(定性調査)になるのかもしれません。
しかし、ただ、それだけでは、マーケティングリサーチとしては、不十分だなぁというのが、100を超える調査を担当してきた私個人の印象です。一体それはなぜでしょうか?
 
また一方では、リサーチを一定使い慣れた方の中には「リサーチやっても優れたサービスはできないよ。意味ない、意味ない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。センスある職人肌のデザイナーさんとかプロデューサーさんに多いかもしれません。また逆にリサーチ結果を一時的に熱狂的に信奉する方も、たまにいらっしゃいます。大体、数字に強い理系の方です。
あと、さらには「リサーチなんか、偏った嘘の数字の集まりだ」という方もいらっしゃいます。「ITサービスでは、ユーザーのアクティビティデータが生のデータなんだから、SQL叩いて出てくる本物の数字があれば、アンケートやインタビューなんていらない」という方もいらっしゃいます。データ分析に強い方に多いかもしれません。
 
いずれも、リサーチという手法への理解が不足した、ちょっとした暴論だなぁと思います。
 
確かに、私自身もこの手法を身につけていく中では、「調査だけではサービスはよくならない」と悲観的に思った時期はありました。が、多数のサービスで多角的にこれらの手法を活用するなかで、やっぱりリサーチは面白いし、本当のコツを知った人が上手に使えば、マーケターや経営者にとって、優れたツールだなぁと改めて思うようになりました。
 
それでは、上手にマーケティングリサーチを活用するには、一体どのようなことに気をつければよいのでしょうか?
下記の7つにまとめてみました。
 

1、適切な対象者のサンプリングを行う

まずは何より大切なことは「誰を対象にして調べるか」です。よくあるNG例が、「友達にアンケート送って100人のデータ出しました!(イヤ、それ、実際対象にしたいターゲット層とはズレた人たちが来ちゃってますよね?)とか、「1000人のデータなのでボリュームは大丈夫です!」(人数はいいんですけど、実際の人口構成比よりも若い人が多すぎません?)とか、「会社の友達に聞いたら、こう言ってました!」(一部上場企業のエリートですよね…その人の意見ってマス層ではないですよね?)みたいな例です。
 
定量調査では、ちゃんとした調査会社なら、年代の偏りを正すために、性年代別人数を日本の人口構成比に合わせてスクリーニング(対象者を集める)しますし、定性(インタビュー)調査でも多数の属性の中で、条件を絞って自社サービスの顧客となりうる代表的な人物像をリクルートして調査に臨みます。
大事なことは、調査内容よりも、調査結果よりも前に「誰に調査をするか」なのです。
また、仮にあえて偏りのある人を対象とするなら、それを前提として念頭においた判断をすべきなのです。
 
また逆に、定性調査の結果を「どうせN=1の意見でしょ、そんなん参考にならない」というふうに考える方もいらっしゃるのですが、そのNが誰であるかは、上記の通り、たとえば3000人のうちから適切な対象者を選んでいる、そういった俯瞰的な視点を前提に置いていることを理解していないからなのです。(ただ、定性調査のリクルートに無自覚な調査も多いので要注意)
 
調査を実施する際は、上記のような観点を理解し、適切な対応ができるリサーチャーを活用することをおすすめします。
 

2、仮説とその後の施策方針を持って調査を行う

調査に振り回されてしまったり、調査の活用が不十分な場合によくあるのが、とにかくなんとなく調べたいことを聞きまくる、調査です。アンケートやインタビューで「これも聞いといてください!」と項目を増やしていくけど、それがわかったからといって、実際、事業の施策に全く反映されない、「So what(だから何)??」な設問が多い場合です。
その質問からどういう答えが出ると思っていて、仮にそれが証明されたとしたら、そのあとどう施策に落とそうと思っているのか、その方針はありますか?
ないなら、調べるべきではありません。調査は一般的に一定の金額とリソースのかかるものなので、その設問1つ1つは事業に資するものであるべきなのです。
 
逆に、過剰な期待もしてはいけません。
調査で新しいアイデアが出てきたり、何か素晴らしい結果が出てくると期待をするのも的外れです。調査から導き出されるのは、リサーチャーや調査の発注者の頭の中にある仮説の検証です。
何かアイデアがあるなら、アイデアを検証できるかたちにまとめ、それを対象者に見せて質問をしましょう。
 
仮説が命です。調査の前には、何を知りたいのかを本気で考えることです。
 

3、対象者を、仮説に誘導しない

インタビュー調査に不慣れなモデレーター(質問をする人)に多いのが、自分の仮説に対象者を誘導してしまうパターンです。
たとえば「このサービスを使ってみたいですか?」とモデレーターに聞かれたとき、多くの場合、特に気の弱い人ならなおさら「そうですね」と答えてしまうと思います。
でも、だからといって、その人が実際にそのサービスを使う確率は、高いとは言えないでしょう。
なのに、この「そうですね」を真に受けて「調査で使いたい人が5人中4人いました!」と社長に報告したとしたら、それは完全な判断ミスにつながり危険です。
 
さらに、その理由を問う時に「それは〇〇だからですか?」と質問するのもナンセンス。仮に正しくなくても、聞かれた人は「そういう理由もあるかもしれないな」と考え、「そうですね」と答えてしまいがちです。
 
正しい質問の仕方は、前者の場合、「使ってみたいか、使ってみたくないか、どちらですか?」と両方の選択肢を示すことです。もっと明確にするなら、「このサービスを使ってみたいか、使ってみたくないか、5段階でお答えください。5ぜひ使ってみたい 4やや使ってみたい 3どちらでもない 2あまり使いたくない 1全く使いたくない だとしたら、どれでしょう?」(5段階の定義は場合によって変えます)という聞き方を私はよく採用します。
 
後者の場合は、まずは「その理由はなぜですか?」で、もし、答えあぐねている場合は、3つ以上の選択肢の具体例をあげて「たとえば〇〇とか、××とか、△△とか…」と幅を持たせます。
基本は答えを限定しないオープンクエスチョン、これがリサーチの原則です。
 

4、目的に応じて、手法を使い分ける

マーケティングリサーチといえども、定量的なアンケート調査と、1人ひとりの心理を掘り下げるデプスインタビューとは、手法が違い、得られるアウトプットも違います。
また、近しいカテゴリでは、ユーザーのデータ分析や、シミュレーションともまた少し違います。
それぞれの癖と使いどころを理解して、目的に合わせて上手に活用しましょう。
 
まず、ユーザーの心理を深く理解したい時には、デプスインタビューです。特に、アンケートでは見えない、購買や行動の背景となっている理由を理解し、深く突き詰めるには、1対1での場がおすすめです。複数モニターの座談会形式もありますが、人は見栄を張ったり、場の空気に影響されたりしやすいものなので、基本は私は1on1を好みます。
 
市場規模や潜在的なユーザー層のボリュームを把握したい時は定量調査を、特に、サービスのローンチ前などに、まだ自社サービスの利用者ではない人まで含めて、また、競合の利用者も含めて、今後の顧客拡大の可能性を知りたい時は、アンケート調査がおすすめです。
 
逆に自社サービス利用者の過去の行動を理解したい時は自社データを分析すべきです。また、特にロイヤリティの高いユーザーを理解したい時は、外部のアンケートでは出現率も低いため、自社サービスのユーザーに直接アプローチしてお話をうかがうのがよいでしょう。
 

5、集団と集団を分ける、境目を見極める

定量調査を分析する際に、大切なことの1つとして、行動や嗜好の違いを生み出す、「境目」となる特徴を見出して、それを分析に生かすことです。
定量調査の結果は、単純集計表という、結果を単純にまとめた集計結果の他に、クロス集計表といって、ある設問の結果でグループを切り分けて、その結果を比べてみる集計があります。
 
たとえば代表的なものとしては、年齢性別。当たり前ですが、多くのサービスで世代や性別でのギャップは出てきますので、性年代で切り分けることは示唆が大きい場合が多いです。
また、ゲームやエンタメなど可処分時間を取り合うサービスでは、既婚未婚、子供の有無で大きく差が出てきます。
金融サービスでは、当然ながら年収帯でサービスへの態度は変わります。合わせて職業でも大きく違いが現れます。
 
このように、サービスに対する態度の変わるユーザー層を切り分けていくことで、「このサービスは独身の男性に特に利用されやすいサービスだ」とか、「年収の低い層ほど利用意向が高い」「未就学児を持つママさんに愛されているサービスだ」などのように、より自社サービスとの親和性の高い属性が見えてきます。それがわかった上で、その層の特に代表的な人に、インタビューに来てもらい、詳しく話を聞くことで、展開方法を探る、といったことを行うわけです。
 
日本市場であれば約1.3億人のうち、一体誰が、なぜ、自分たちの顧客になってくれそうで、そのために、何が必要なのか、俯瞰的かつ深い理解を促すのが、このリサーチの活用方法なのです。
 

6、誤差を理解し、最低必要なサンプル数を確保する

当たり前ですが、アンケート調査には一定量の誤回答が含まれます。適当に答えても誰にもバレることもないですし、悪意なく、嘘を回答してしまう人は一定存在します。体感的にはサンプルの10%程度は嘘が含まれるような気がします。
でもだからといって、全ての結果が当てにならないとは言えないですし、逆に、すべてを鵜呑みにしてしまうのもよくありません。
ですから、なるべく誤回答が出ないように調査設問・選択肢・回答条件等を設計する必要がありますし、結果を活用する際の態度として、端から端まで全て真実だと考えないことが重要です。
 
また多くのアンケート調査は、対象となる日本人全員に対しての全数調査ではなく、それを代表する人を一部(100人とか1000人とか)抽出してきて全体を類推する標本調査であるため、サンプル数が少ないほど、真の数値との誤差は大きくなります。ですから、サンプル数は多いにこしたことはありませんし、目安としては、クロス集計した1つの集団ごとに、できればサンプルが100を切らないように、どんなに少なくとも30-60ぐらいは確保するのが大切です。
 
また、たとえばAとBとどちらがよいかと調べるときに、専門的には統計的有意差があるかどうかを確認します。「結果に差があると言えるためには、○%以上の差分が必要」といった考え方です。詳しくは、専門家に聞いてもらう方がいいとは思いますが、大抵の調査で1、2%は誤差の範囲です。ですから「Aは31%で、Bは32%なので、Bにすべきです!」といった分析はナンセンス(正しくはAとBは同程度で差はないと解釈すべき)なので、お気をつけください。
また、余談ですが、調査結果を"32.8%"など、小数点以下まで記載するのは、ほとんど意味がありません。なぜなら小数点より小さい数字など、明らかに誤差の範囲だからです。結果が読みにくくなるだけなので、調査レポートでは小数点以下は四捨五入しましょう。
 

7、リサーチを簡単だとは思わない方が良いかも

最初に書いたように、アンケートの設問を作って結果を集計することも、誰かにゆっくり話を聞くことも、手法としては難しいものではないので、ある意味ビジネスマンなら誰にでも簡単にできることのように感じられます。
ですが、実際には、これまで述べたような「誰に」「どのように」問うかによって、また、どのように分析するかによって、データは大きく歪み、全く逆の結論を導いてしまうことがあります。
特に、思い込みの強い人が恣意的に関わると、数字を大きく捻じ曲げてしまうことにもなりかねません。
手法は難しいものではないのですが、その活用の仕方によっては諸刃の剣。
ですから、事業の方向性を決定づけるような判断に際しては、やはりスキルと経験のあるリサーチャーに任せるべきですし、また、経営者はこの手法の効果的な活用法を、理解しておくべきだと思います。
リサーチは、難しいものではないですが、簡単ともいえないものなのです。
 
とはいえ、活用法を理解すれば、ユーザーへの理解を身につけるための、心強いツールとなるものです。そして、サービスをよりよく成長させ、多くの人々に届けるための羅針盤となるのかもしれません。
 
以上、拙いですが、短い期間ながら猛烈のスピードの早いIT企業で膨大な量のマーケティングリサーチを活用してきた人間としての、コツまとめでした。
 
これからも、マーケティングが世の役に立ち、人々の幸せに貢献しますように。
この記事が微力ながら、お役に立てることを願います。

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