マーケターの過去と未来をつなぐ場所、マーケティングアジェンダ2018

先日「マーケティングアジェンダ」という3泊4日で日本のマーケター(ブランド:事業会社のマーケティング担当と、パートナー:ソリューション提供者の双方)が集まる合宿形式のカンファレンスに参加してきました。

マーケターが集まるこのカンファレンス、実は(特にブランド側にとっては)丸々3日間朝食から夕食までみっちりスケジュールが埋まっている、なかなかタフなカンファレンスなんですが(忙しくてなんかちょっと痩せました笑)、その分の実りある会でした。

その一端をご紹介します。

マーケティングアジェンダ、行ってよかった!

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私自身の参加のきっかけについては、実は、直前に上司がどうしても参加できないということで急遽参加をすることになったため、具体的にどういう会なのかよく理解できておらず、知り合いもそれほどおらず、航空券が取れたのは出発前日、名刺が足りないけど印刷が間に合わないので一部キンコーズでコピーというような状況で、沖縄に到着するまでかなり不安でした笑
 
・・・が、結果的に、行ってみてとてもよかった!
何がよかったというと、下記の3つです。
 
・出会える人とそこで交わされる話題
・会全体の場づくり、雰囲気作り
・脳を刺激するトップマーケターのKeynote講演
 
具体的にご紹介していきます。
 

日本中で真摯に顧客に向き合っているマーケターが集まる

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 何がよかったかというと、1番目にあげられるのがどこで出会えるマーケターの方々です。さすが皆さんマーケター、一癖あったり、飛び抜けて頭の回転が早かったり、実直に顧客に向き合っていたり、でもやっぱりコミュニケーションや人の心に触れる何かに特化していて、それぞれ魅力的なんです。

ブランド・パートナーの方々含めて、「この方と話が合いそう、今じゃなくてもいつか一緒に仕事ができそう」という出会いが多く、嬉しくなりました。

そもそも相当の大企業でなければマーケターの数は一定限られており、複数いてもそれぞれ役割を分けるので、同じ仕事をしている人って意外と社内に少ないんですね。ですから、他社の同業者との交流は、思いがけず、共感の嵐で嬉しくなりました。

あと、私自身、これまであまりネットワーキングに力を入れていなかったこともあり、勤めた会社での人脈がベースだったのですが、今回様々な企業のマーケターとお会いして、「同業者と会うって楽しい!」と改めてその価値を知りました。

また、一方で所属する企業の業種業態が様々なので、IT系、流通・小売系、日本を代表するメーカー様などなど。マーケターとしての共通項と、扱う商品・サービスの違いとの両方があり、いろんな方とお話しするたびに新しい視点があるので、刺激的です。

20代で勤めたコンサルティング会社では、様々な業種・規模の企業の方々とお会いする機会がありましたが、当時それぞれのプロジェクトが始まる時のワクワク感と似たのようなものがあり、様々な企業でのマーケティングの注力ポイントをお伺いすることができ、楽しかったです。会社によって新規顧客の獲得やロイヤリティアップ、メーカーさんの自社通販の立ち上げ、アパレルのオムニチャネル化、海外戦略、インバウンド戦略など、様々な課題に向き合われ乗り越えていらっしゃいました。

お一人お一人とお話しすることで、今のマーケットの潮流というか、商機のようなものも見えてきます。メディアや書籍の情報とは違い、リアルにマーケティングの現場で戦う方々の生の声なので、とても勉強になりました。

また、マーケティングという幅広い概念について、自分の経験してきたこと以外の視野、視点にも改めて気づかされました。

これまで私自身のキャリアでは、IT企業でのマーケティング経験がもっとも長いため、CPAをベースとする獲得目的メインのマーケティングが中心でしたら、今回沖縄では単純な獲得のみならず、広く人の心と行動を動かすマーケティングへと視野を広げることができました。

また、前職の同僚がいたり、何年も前に一緒にお仕事した方と偶然に出会ったり、上司の元上司の方とご挨拶したり、とご縁も多く、何だかんだつながりがあるものだなと思いました。

ともかく、そこにマーケターが集まっている、ということに1つの価値があるのです。

会全体の場作り・雰囲気作りが素晴らしい 

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そして、ここまでご紹介した様々な方とのご縁は、もちろん主催者のきめ細かな場作り・雰囲気作りによって生み出されたものです。たとえ3日間あったとしても、普通に過ごしていれば100人をゆうに超える方々とご挨拶しお話しをするのは難しいでしょう。

冒頭から、主催の株式会社ナノベーションさんから「たくさんの方とネットワーキングしてください」と交流を後押しされ、3日間ずっと首から会社名と名前を書いた大きな名札ぶらさげているのもあり、また、積極的かつある意味少々強制的にネットワーキングタイムが設けられているので、多くの方々とご挨拶する機会に恵まれます。

朝・昼・晩すべての食事で別の方と円卓を囲み、またさらには、レクリエーションタイムが設けられているため、業務に関係なく同じ時間を過ごし、共通の話題となる思い出作りができるようになっているのです。

レクリエーションは、ランニング、ビーチアクティビティ、サンゴ植樹、ボディメイク、料理教室など様々で、みなさん沖縄を満喫されたようでした。(私はボディメイクで…スクワットや腕立て伏せなどスパルタコースでした。笑)

そういった取り組みのおかげで、この会に参加した人みんながなんとなく仲間、みたいな空気が醸成されており、一気にマーケター仲間が多数増えたようでした。

3日間、約400名ものイベントを運営するのは、並大抵のことではないだろうと想像いたしますが、スケジュールから場の設定、様々な催しコンテンツと隅から隅まで行き届いた、そして目的を全うした会でございました。

脳を刺激するトップマーケターのKeynote

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また、メインのコンテンツとして、3日間それぞれKeynoteが設定され、一流のマーケターの方々がパネルディスカッション形式でお話をされました。

1日目は、ドミノ・ピザの富永朋信氏をモデレーターに、エステー鹿毛康司氏と元P&Gの音部大輔氏、伊東正明氏の計4名で、エステー消臭力対P&Gのファブリーズで消臭芳香剤の戦いが壇上で再現されます。

ファブリーズが洗濯洗剤関連商品の顔をして、しれっと消臭芳香剤のカテゴリを侵食して行ったプロセスはあっぱれで、なんだか漫画『キングダム』の飛信隊が敵の意表をついて攻め込む姿のようで、さらには敵(であるエステーさん)もそれを密かに察知して動いていたりして、頭のいい将軍と将軍の知能戦のようでワクワクしました。(という感想は少し不謹慎かもしれませんが…)

エステーさんの「消臭力」のマーケティングのハイライトは、2011年、ミゲルくんが高らかと歌い上げるCMが、震災後の人々の心をつかみ大ブレイク。そのCMは便益を伝えているわけではないけれど、顧客の心を動かし距離感が近づき、さらにその強いネーミングと歌の掛け合わせで店頭で「思い出される」ものとなったことがあげられていました。

とはいえ、このマーケティング手法は、どうやってその結論と実行にたどり着いたのかの想像がつかず、何か不思議な魔法のように感じられました。

帰宅後に鹿毛さんの書籍『愛されるアイデアの作り方』を拝読するに、お客様ひとりひとりに、様々な方法で向き合いつつ、真剣にかつ飛び抜けたアイデアを探した結果として、あのようなCMにたどり着かれたのかもしれません。

鹿毛さんの思考プロセスは、今後もさらに深く学んでみたいものです。

…と思っていたら、なんと、同じ登壇者で、改めてアフターカンファレンスがあるようです。いかねば!

「マーケティングアジェンダ2018」アフターカンファレンスを東京で開催 | Agenda note (アジェンダノート)

合わせて、同様に目からウロコだったのが、Keynoteではないですが、2日目と3日目のパートナーのプレゼンで2度登場したライオン・クリニカキッズの動画でした。ママ的に(ターゲットユーザーのため)ぶっ刺さりまして、その背景にある考え方、プロセス、アイデアのきっかけに非常に興味を持ち、後ほどのパーティでライオン・横手弘宣氏にお話を伺いにいきました。

「”こどもの歯みがき嫌い”の理由。実は...」篇 - YouTube

お客様へのインタビューの中から見出した、ある母親の「毎日プロレスなんですよ」という声。これは、子どもへの歯磨きがいかに大変かというのを表現した言葉でした。

その言葉の発見から、ユーザーの体験と心理に寄り添ってインサイトを深掘りし、さらにその苦痛を解決する方法を動画の中で見出しました。マス・数字を見ていると時々わからなくなってしまう、1人のユーザーの生活・体験・心理に改めて寄り添うことの重要性を思い出しました。

いずれにせよ、一流のマーケターの頭の中を覗き見るような感覚で、それは非常に刺激的な体験でした。

(講演の詳細は、私よりずっとわかりやすくまとめている方がいらっしゃるので、そちらにお任せいたします)

 

2日目のKeynoteではマクドナルドの足立光氏をモデレーターに、元セブン&アイホールディングスの鈴木康弘氏よりセブンイレブン流の独特の考え方が披露されました。

広告は打たない、店頭が広告、商品開発者がマーケター、顧客が欲しがる強い商品を持つプレイヤーが勝つ、競合は見ない、基本を徹底、PDCAを回す。本当にお客様が欲しい商品を徹底して追求してきた会社なのだと改めて感じました。

ちなみに、このお話をうかがっていて、同じく巨大流通のアマゾンに酷似してるなぁ思いました。私、アマゾンジャパンに在籍していたことがありますが、やはり同じくコミュニケーションよりも商品そのものを1番のキモとする傾向が強かったですし、また、お客様が喜ぶことを徹底して追求することが何より第一優先で、競合の話を社内でもほとんどしません。

なんというか強い流通には、共通項があるものだと1人納得しておりました。

ちなみに詳細は書きませんが、モデレーター足立さんの軽妙で切れ味のいいツッコミが絶妙すぎてすっかりファンになっちゃいました。笑

 

そして3日目。

カンヌ広告賞グランプリを獲得した、リクルートさんの簡易男性不妊検査キット「Seem」に関する講演。開発責任者・入澤諒氏と広告動画『THE FAMILY WAY』のクリエイティブディレクター・萩原幸也氏の方が登壇されていました。

THE FAMILY WAY / Seem — スマホでできる、精子セルフチェック — - YouTube

新規事業に携わってきた人なら、きっと「1度でいいから世に生み出してみたい」と嫉妬するほど素晴らしい商品力。Seemは、実はあまり知られていない、男性不妊にフォーカスをあてた商品です。晩婚化・晩産化で不妊に悩むカップルは年々増えていますが、実は不妊の半数は男性に起因するもの。なのに不妊治療は女性が進めることが多いため、男性不妊の発見が遅れ女性に負担がかかることが多いそうです。

それを解決するために登場したのがこの「Seem」で、キットを購入すれば、自宅で簡単に検査できるのです。

強い社会的意義と独自性が突き抜けていて、ただシンプルにその本質を伝えることが、最も優れたマーケティング手法だと感じられました。

また、この動画も素晴らしく、実際にSeemで男性不妊が見つかった3組のカップルがドキュメンタリータッチで映し出されます。そのカップルの表情が本当になんとも言えず複雑で、よくぞ顔出しで登場してくれたものだなぁと胸が痛くなりました。リアルに勝るコンテンツはないなと。

私自身、妊娠・出産・育児メディアを担っていたとき、不妊についてもかなり真剣に勉強した時期がありましたが、不妊治療の心理的・肉体的・経済的な負担は想像以上のものです。その負担に寄り添い、そして少しでも解決へのサポートを行う当商品の存在意義は大きいなと、個人的にも応援したい気持ちでいっぱいになりました。

今後、一般の方々向けのPRがさらに充実していくといいなぁ。

 

そして3日目の最後に、改めて3日間を振り返ってのラップアップセッション。

ニトリ・田岡敬氏、吉野家・田中安人氏、ドミノピザ・富永朋信氏、マクドナルド・足立光氏の4名が3日間の学びをまとめました。

このまとめは特にメモの嵐で、学びを全て消化できたわけではないですが、いくつかご紹介します。

「勝ち続けるマーケティングとは?再現性を担保するには?」 との問いには、やはり繰り返す新製品やキャンペーンで、目的と施策、結果を関係者全員で検証し、成功確率を上げていくこと。振り返りなしのやりっぱなしキャンペーンはもったいない、成功も失敗も次に繋げられるようにPDCAを回すこと。そして、成功の喜びを全員で分かち合うこと。チームで成功を導いてこられた足立氏の金言でした。

もうひとつ強く共感したのが、「マーケティングとはゲームのようなもの」というお話。マーケティングとは、会社のお金で社会実験をしているようなもので、いろいろやってみることが面白い。そのためにも、あんなことしたいな、と思ったときにすぐに連絡できるネットワークを持っておくべき。マーケティングとは未来を作る仕事なのだとのことでした。

本当に、マーケティングって面白いんですよね。たぶん辛いこともいっぱいあったと思うのですが、それは忘れちゃって、この仕事の面白さから抜けられないのが、マーケターという仕事なのかもしれません。

そして、Keynoteに登壇された方を中心に、一流のマーケターの思いに触れることで、今の自分の立ち位置や足りないものが見え、さらになりたい姿を見つけることができました。

マーケティングアジェンダは、マーケター同士、また過去と未来をつなぐ場所

さて、ここまで私個人のマーケティングアジェンダ参加体験記を綴らせていただきました。全体をフラットに丁寧にお伝えするというよりは、今回は個人的な視点で感銘を受けた点を書いています。少々というかかなりの偏りがあると思いますので、一意見として参考になさってください。

この3日間、様々な出会いがこれまで過去に自身が関わった事業を想起させたこともあり、改めて、事業というものの面白さ、そしてその中で出会う人のご縁のありがたみを感じ、今の自分の立ち位置を見極めることができました。そしてまた、新たな視点をいただいたことで、これからやりたいこと、チャレンジしたいことも見えてもきました。

他の業務をほぼ一旦止めて投資するこの3日間は、マーケターが自分の過去と未来を見る場所といえるのかもしれません。

また、仕事は面白いし楽しくチャレンジしがいのあるものだなと改めて感じました。そして、チャレンジのプロセスには一緒に汗を流した仲間がいて、そして達成の喜びがある。お客様の喜ぶ姿がある。涙がある。

仕事は人に紐付いているものです。特にマーケティングの仕事は、これからもAIなどで代替できないものが多いでしょう。

マーケティングとは、人と企業を結びつけるもの。もっといえば、企業もまた人の集合体ですから、人と人との対話(コミュニケーション)の中に生まれるものともいえるのかもしれません。

マーケターとして視野を広げ、そんなことを考える時間になりました。

以上、個人的ではありますが、マーケティングアジェンダ体験記でした。

ご挨拶させていただき、一緒に過ごさせていただいた参加者の皆様、心に刺さるお話をくださった登壇者の皆様、会全体を高いレベルで運営してくださった主催者の皆様、本当にありがとうございました。3日間送り出してもらった上司・会社にも感謝です!